インプラントをダメにしないためのマウスピース

目次
現代のインプラント治療は、インプラントと骨が結合することにより、高い成功率を誇る治療法として確立されています。ブリッジや入れ歯にはない利点を持ち、噛めないという悩みを抱いている方にとって福音となりました。
ですが、その一方で、せっかく入れたインプラントがダメになってしまうケースも見られます。その原因が、歯ぎしりや食いしばりという癖です。
今回は、歯ぎしりや食いしばりの悪影響とインプラントを守る方法について解説します。
インプラントと普通の歯との違い
歯ぎしりや食いしばりのインプラントへの悪影響を理解するためには、まずインプラントと普通の歯との違いを理解しておかなければなりません。
歯根膜の有無
普通の歯は、骨と直接くっついて生えているわけではありません。歯根と骨の間には、歯根膜という薄い靭帯のような膜があり、これを介して歯と骨はくっついています。
歯根膜の役割
歯根膜には、食べ物を噛んだ時にかかる力が歯から骨にダイレクトに伝わるのを防ぐ“クッション”のような役割と、噛んだ時に歯にかかる力を感知する“センサー”の役割があります。
歯根膜がセンサーの役割を果たすことで、不必要に強い力で噛むのを防ぎ、クッションの役割によって、歯にかかる力を和らげています。
ですから、歯を指で掴んでみると、歯根膜の厚みの分だけ少し揺らすことができます。
インプラントには歯根膜がない
現代のインプラントは、チタンという金属でできています。チタンと骨は相性が良く、インプラントを埋め込むとその周囲に骨が再生し、インプラントと骨が結合します。
この現象によって、インプラントは顎の骨にがっちりくっつくのですが、そのために普通の歯のように歯根膜というクッションの役割を果たすところがありません。
結果、噛み合わせた時の力は、インプラントから骨へとダイレクトに伝わります。
インプラントは歯根膜がないために、普通の歯と比べると、噛み合わせの力に対する耐性に劣ってしまうのです。
実は上下の歯の間は空いている
実は、1日のうちで上下の歯が接触している時間は、非常にわずかです。一説には数十秒しか上下の歯は接触しないとも言われています。
上下の歯の間には隙間が常にあり、上下の歯が接触するのは食事の時だけです。
この上下の歯の間にある隙間を安静時空隙(あんせいじくうげき)と言い、通常は数mmほどです。
つまり、上下の歯には噛み合わせの力がほとんどかかっていないのです。
歯ぎしりや食いしばりがあると
歯ぎしりや食いしばりは、噛み合わせの癖です。
こうした癖があると、本来は噛み合わせの力から解放されているはずの時間も、噛み合わせの力にさらされるようになるので、歯にはとても大きな負担がかかることになります。
軽い歯ぎしりや食いしばりでも
ギリギリといった音を発するほど強い力で歯ぎしりや食いしばりをしている方もいれば、下の歯で上の歯を触る程度の軽い方まで症状はいろいろです。
特に後者の、歯で歯を触る程度の軽い癖がくせ者で、これを歯ぎしりや食いしばりと捉えない人が多いのです。
しかし、軽い接触程度でも歯に噛み合わせの力がかかることには変わりませんので、どちらの歯ぎしりや食いしばりも、歯にとっては無視できない負担になります。
歯ぎしりや食いしばりのインプラントへの悪影響
インプラントには歯根膜がありません。
つまり歯ぎしりや食いしばりといった負担を受け止めるクッションがないので、インプラントに対してダイレクトに噛み合わせの力がかかるようになります。
インプラントの破損
歯ぎしりや食いしばりによって、インプラントの上部構造、つまり人工歯の部分が欠ける事があります。
通常、インプラントの上部構造はセラミックで作られていますので、かなり強度は高いのですが、硬い反面磨り減ることがありません。
そのために、噛み合わせの力に耐えられなくなると、欠けたり割れたりしてしまうのです。
インプラントの脱離
インプラントと上部構造は、ネジでつながっています。歯ぎしりや食いしばりの癖があるとネジが緩んでくることがあり、その結果、上部構造が外れてしまうことがあります。
インプラントの脱落
インプラントは骨と結合することで、しっかりと収まるようになっています。
ところが、歯ぎしりや食いしばりがあると、インプラントと骨の結合がうまくいかなくなったり、もしくは結合していたところがダメージを受けてしまったりします。
すると、インプラントが骨との結合状態を保てなくなり、抜け落ちてしまうことがあるのです。
歯ぎしりや食いしばりの原因
歯ぎしりや食いしばりの原因は、今のところはっきりとは解明されていませんが、ストレスや噛み合わせなどが考えられています。
歯ぎしりや食いしばりの治療法
歯ぎしりや食いしばりの治療法としては、スプリント療法などの治療法が行われています。
スプリント療法とは
スプリント療法とは、ゴムやプラスチックでできたマウスピースを上顎、もしくは下顎の歯に装着する治療法です。
歯ぎしりや食いしばりによる噛み合わせの力をマウスピースに受け止めてもらい、歯やインプラントにかかる負担を軽くするのです。
マウスピースを装着するだけで負担を軽くできますので、歯やインプラントにかかる力を早期に解消するのに、マウスピースはたいへん効果的です。
スプリント療法は、インプラントと異なり保険診療で受けることができます。
咬合調整
咬合調整とは、上下の歯の噛み合わせを調整することです。噛み合わせの不具合で歯ぎしりや食いしばりを起こしている場合は、噛み合わせを調整して整えることで、改善できることがあります。
薬物療法
歯ぎしりや食いしばりに対して、筋肉の緊張をほぐすために筋弛緩薬や、精神的な緊張を解くために抗不安薬などの薬を使った治療が行われることもあります。
歯ぎしりや食いしばりからインプラントを守るために
インプラント治療を受ける前なら、歯ぎしりや食いしばりの治療が優先です。
もし、すでにインプラントを装着している場合は、歯科医院でマウスピースを作ってもらいましょう。咬合調整や薬物療法では、効果が出るまで時間がかかる可能性があるからです。
マウスピースは市販でも販売されていますが、ご自身の歯型に合っていないものを使用するとインプラントだけでなく歯や顎にも悪影響を与えることがあります。
その点、歯科医院では実際の歯の大きさや傾きなどの特徴に合ったマウスピースを作製することが可能です。
前述したように、マウスピースなら装着するだけでインプラントにかかる力を和らげてくれます。
インプラントに悪影響が及ぶ前に、歯型に合ったマウスピースで歯ぎしりや食いしばりからインプラントを守りましょう。
まとめ
今回は、歯ぎしりや食いしばりの癖とインプラントの関係について解説しました。
歯ぎしりや食いしばりの癖は、インプラントにとってたいへん有害で、インプラントが破損したり、脱落したりする原因となります。
マウスピースは、歯ぎしりや食いしばりによる力からインプラントを守るためにとても効果的です。
インプラントを装着している人は、歯ぎしりや食いしばりからインプラントを守るためにマウスピースを作ってもらうようにしましょう。